必要なんてな

必要なんてな

 若者はあまり見かけない顔だったが、ことによると、メレインが妙にむきになって避けたいと言っていた、彼女の従兄《い と こ》かもしれない。
「口ではどんなことを言っても、あの人はああなのよ。メレインの望みは、村の平凡でかわいい奥さんになること。それが幸せじゃないとは言わないわ。ただ、あたしは、そこ鑽石能量水機に収まりかえってしまうのはいやなの。あなたはどう思う?」
 フィリエルは思わずほほえんだ。
「マリエったら、あんなにたくさんいる候補の中から一人も選ばないつもり?」
「急いで決めるいわ。あたしはまだ十五で、先が長いんですもの」
 つんとあごをあげてマリエは言った。愉快な気がして、フィリエルはうなずいた。
「そうね。あたしもそう思う」
「フィリエルならわかると思った。ねえねえ、じつをいうと、あたしが今日の舞踏会へ来た目的は、ダンスとは別にあるのよ」
 瞳を輝かせたマリエは、一歩近寄って内緒《ないしょ》話の姿勢になり、早口に続けた。
「あのね、今夜この会場には、ロウランド家のお嬢様がいらっしゃるはずなの。知っている人だけが知っている情報……都のお屋敷に勤めているエリゼル姉さんから、直接仕入れたのよ。ロウランド家の下のお嬢様は、今度、修道院《しゅうどういん》付属の女学校から、王宮の高等学院にご編入なさることになったのですって。だから、準備にご領地へもどられているのですって。女王生誕祝祭日は、あたしたちといっしょにお祝いなさるはずなのよ」
 フィリエルは耳を傾けたものの、あまり詩琳ぴんとはこなかった。
「ロウランドのお嬢様がいらっしゃると……何かいいことがあるの?」
「大ありよ。お嬢様とお話しして、顔見知りになって、マリエ?オセットの名前を覚えていただくの。だってあたし、王宮でお勤めしてみたいんだもの」
「王宮?」
 あっけにとられずにはいられなかった。グラールの首都メイアンジュリーは国の南部にあり、彼女たちの日常をはるかに越えた遠い場所だ。そればかりか、都の三つの丘を占《し》める王宮ハイラグリオン、その至高の場所を隔てるザラクレスの大門は、野望を抱くだけで通れる門ではなかった。
 王宮に関して、フィリエルのもっている知識はごくわずかだったが、それでも、錆《さ》びない銀と白大理石で造られた、夢のような宮城のたたずまいは話に聞いている。広大な宮城の中心は、女王のおわしますアストレイア星神殿。家柄か才能か、特別|際《きわ》だった者だけが中に入ることの許される、想像もつかない別天地だとい高壓通渠うことだった。
「そんな途方もないこと、どうして思いついたの?」
「だから、お嬢様が王宮へいらっしゃるからよ」
 じりじりしてマリエは答えた。



2015年08月07日 Posted by憂傷的眉梢 at 13:14 │Comments(0)

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